アルバイト
(カップを渡して)
はい、お疲れさま。
…もしかしてブラック駄目だった? 一応砂糖あるけど…
(3袋破るのを見て)
…おぉう、見かけによらず甘党なのね。
俺も真似して多めに入れよ。
(しばし二人でゴクゴクと飲んで)
くぁーーーー…
染みるわぁ。 やっぱ疲れた頭には糖分ですわ。
(今日は助かりました、と言われ)
?? 何が?
…あぁー、昼のあれ?
いや、いいのいいの。
あんな量ね、入りたての人にさばけるわけないって。
お昼はお店のピークなんだがら、 それ分かってながらこんな少人数のシフトで組むとは… 店長もSだよねぇ。
…まぁ、実際のとこ就活やら何やらでバイトが抜けてるから、ほんとに人が足りてないのか。
(曖昧に笑う後輩)
このバイトさぁ、覚えることも多いし、特に大学入りたての子だと軽いトラウマになって、こういう時間帯のシフトを避けたがるんだよ。
(求人広告との違いに衝撃を受ける後輩)
…あ、いやいや でもね。逆にこの時間慣れちゃえば、あとですげー楽だから。
(そうなんですか?と聞かれて)
うん。
(ちょっと飲む)
例えば… どこで手を抜いていいか、どこなら駄目なのか… それも結局一番忙しい部分を知らなきゃできないし
… って、今のテンチョーやシャインさんにはナイショね。
はい、男と男の約束!
(笑いながら)よっしゃ。
(しばらく無言で飲む二人)
仕事、やっぱきつい?
(無言を肯定と受け取る)
…。
(ため息)だよねぇ…。大体ここ、マニュアルに書いてないこと多すぎだから
ほんと、新人のこと何だと…
…って、うわ。うわぁあ…なんつーわかりやすく青い顔に…。(笑って
なんか君、あれだわー。入りたての俺にちょっと似てる。
(かなり驚かれて)
意外?
こう見えて、めちゃくちゃマニュアル人間ですよ? 俺。
今のテンチョーは、まだまだ優しい方だけど、俺が最初入った頃は… なんかもう
人間扱いされた記憶がないんですよ…。
一度したミスを、同じタイミングで次も繰り返す、言われたことを言われた時間内にできない。
だからせめて正確にって思っても、それすらスピーディーに片付けてる人の半分以下の動きしかできなくてさ。怒られたくないから正確に、順序よくやろうとしても、あの怒号が耳に染み付いて、手が自然に震える…
今にして思えば、まさに新人あるあるだよ(笑)
(共感して笑う後輩
そん時いた先輩はさ、「気にするな」ってまだ優しい方だったけど、それ言われるのがまーたつらくて。
こんなんで金もらって給料泥棒って、影で言われてるんじゃないかーとか。
自分は人間の出来損無いなんじゃないかって、悔しくてきつくて、毎日吐きそうだったなぁ。
(どんよりしている後輩)
あ…、あーー(笑って)あのね、ごめんなさい。
脅かすつもりなかったんだけど。
俺もさ。ここが初めてのバイトだったから、慣れてなかったんだろうな。
(やめよう、とか思わなかったんですか?、と聞かれる)
…うーん
確かに。なんでやめなかったんだろ。 自分でもあんまり覚えてないけど…。
うち、親が親だから仕送りは期待できなかったし、
「もし別のバイトもこんなんだったらどうしよう」って思っちゃうと、
やっと仕事覚え始めた段階でやめるのが、それはそれで怖くてさ。
一年たって余裕出てきた頃、試しに別のバイト始めてみたら、あまりのヌルさにびっくりですよ。
…なんか… 後から思うと、ここで鍛えられて助かったことは多かったわけだから、結果オーライなのかな。
結局、あらゆる仕事に共通して必要なのは、めんどくさがらず耐える力なんだなー…ってね。ちょっと実感したよ。
そりゃね、もちろん「やりがい」とか?「楽しみを見つける前向きさ」とか、「てきぱきこなす要領の良さ」とか、かわいい女の子の後輩…とか
人によって仕事の土台になる部分はそれぞれなんだろうけど。
(笑って)悲しいかな、俺にはそのどれも無かったからなぁ…
(自身の似たような状況を思い、微妙に落ち込む後輩)
でもね、逆に言うと、他に誇れるものがなくても、折れないで最後まで粘ることができたら、まぁ大体のことは上手くいくし、一生懸命な姿を見てりゃ、周りもそう邪険にはならないってのが俺の経験論。
(情報量の多さに、一瞬目をぱちくりする後輩)
えっと、何が言いたいかっていうと、つまりですね。
(真剣に)君のやり方は間違ってない。だから、今のままやっていけば大丈夫。
(せっかく感動しかけたのに、なんか遺言みたいです、と言われて)
…あはは…
そりゃ俺だって、いつまでもこの店にいるわけじゃないから。
君もいつか、こんなふうにコーヒーおごるような後輩ができたら、わかるかもよ。
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なんやかんや、この人店は辞めないんだろうなって思います(
バイトが次々入れ替わって、まったく戦力が育たない中、いつの間にか店の古参、長老みたいな存在になってる人たまに居ますよね(経験談じゃないです
(例えかわいい同僚がいなくても)、こういう先輩が一緒にいること自体で、彼もこれから少しは楽になれるんじゃでしょうか。
よかったら演じちゃってください。