獄中の協力者
刑事さん、また会いに来てくれたんですね。
…嬉しいなぁ
ここに収監されて半年、精神鑑定のドクター以外、誰も来ないから退屈していたところだったんです。
それで…
ここに来たってことは、例の事件の犯人、まだ捕まってないんですよね。
…だと思いました。
これ、一応刑事さんにいただいた資料には目を通したので、犯人の見当も大体ついてますよ。
(驚く刑事)
といっても誰か、じゃなくてどんな人間か といった方が正しいかな。
(意味を考えようとするが、分からない刑事)
知りたいですか。
知りたいですよね。
教えてあげてもいいんですけど、それじゃつまらないし。
とりあえずヒントだけあげます。
…「ある女の人が、とても小さな傘を差して歩いています。
その人は1kmも離れた駅まで、靴を全く濡らさずにたどり着くことが出来ました。それは何故でしょう」
(少し考え、長いレインコートを着ていたからか、と答える刑事)
(笑って)…刑事さんやっぱり真面目ですね。
そもそも、いくら長いレインコートで上からの雨をしのげても、
濡れた道を歩けば、絶対に靴の裏が濡れてしまう。
そのステレオタイプな考え方じゃ、
この事件は永遠に迷宮入りかもしれないなぁ。
…
「女の人が差していたのは日傘だった。」
これがクイズの答えです。
刑事さんは傘と聞いて、反射的に雨が降ってると思い込んだ。
その先入観が、単純な回答をよりややこしくしてるだけだったんです。
この事件も同じですよ。
…。わかりませんか? じゃあスペシャルサービスで二番目のヒント。
「事件の現場、被害者の部屋の中は荒らされていたのに、玄関には無理やり押し入ったような痕跡はなく、
窓も施錠されていた。このことから警察は、『犯人が被害者の顔見知り』という線で容疑を絞ったものの、
該当する人間には全員アリバイがあった。だから犯人が捜査線上に浮かび上がってこない…」ですよね?
(固唾を飲んで耳を傾ける刑事)
重要なのは、第二の事件現場が、第一の事件があった後、警察が封鎖したエリアの中で起こった、という点です。
そして、顔見知りじゃなくても、被害者がつい部屋に上げてしまうような人物、
いや職業…
(警察関係者の中に犯人がいることに思い当たる刑事)
… やっと気付いたみたいですね。
正に灯台下暗しってやつです。
…。もうちょっとお喋りを楽しみたかったんですけど… そうですね。
この犯人は、自分のことを正義である と強く思い込んでいる節がある、
こんな場所にいる僕が言うのもなんなんですけど、とても歪んでいて、それでいて性急さを感じる。
もしも身内にホシがいるのであれば、第三の被害者が出る前に、急いだ方がいいかもしれません。
(礼を言った後、身を翻し出ていこうとする刑事の背中に向かって)
刑事さん。
僕は誰があと何人死のうが、どうでもいいと思っています。
でも…
刑事さんにこうやって頼ってもらえるのは、とても嬉しい。
また会いに来てください。ずっと待ってますから。
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一歩も部屋の外を出ずに、資料と情報だけで事件を推理する探偵、みたいなの昔いたなって…。Lとかもそうだっけか
(この彼は犯罪者ですが)
よろしければ、演じちゃってください